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2012年11月29日

ガン細胞を自殺させる治療薬とは?



間 黒助です。




人間の体は60兆個とも言われる細胞からできています。

しかしこれらの細胞は傷付いたら死に、

中には寿命を持つ細胞もあるので、

平均すると毎日3,000億個も死んでいると考えられています。


細胞の種類によって寿命は違うものの、

最も短い皮膚細胞や血液細胞(血球)は、

数日~数ヶ月で老化して死に、

新しく生まれた細胞がこれに取って代わります。


ところが体内で生まれたガン細胞は、

これとは大きく異なります。


ガン細胞には寿命がない上、

抗がん剤などで攻撃しても簡単には死なず、

分裂を繰り返していくように見えます。


では、

正常な細胞とガン細胞はどこが違うのでしょうか?


正常な細胞の遺伝子には、

“自殺のプログラム”が組み込まれています。

このプログラムが実行されて起こる細胞の死を、

『アポトーシス』

と言います。


アポトーシスの役割の1つは、

人間の体を危険にさらす細胞を排除するというものです。


例えば、

ウイルスに感染した細胞は、

感染の被害を他の細胞に広げないうちに自殺します。

細胞内の遺伝子の本体であるDNAが、

自ら修復できないような傷を受けたときも、

自殺プログラムが動き出し、

細胞は増殖しないうちに死にます。


また、

体の組織を作っている細胞は、

隣の細胞との結合が切れたときにも死んでしまうことがあります。

これは細胞が本来所属すべき組織を離れて、

体内にさまよい出さないようにするためのプログラムが存在するためです。


しかしこれはガン細胞には当てはまりません。


ガン細胞の多くは、

こうした本来の自殺システムを回避することができるのです。


ある種のガンに対して、

化学療法や放射線治療の効き目が小さい理由の1つは、

このためと見られています。


現在使われている抗がん剤や放射線は、

遺伝子DNAを切断したり、

その構造を変えたりして、

細胞に自殺プログラムを実行させます。

しかし自殺プログラムを失ったガン細胞は、

本来なら致命的な傷をDNAに受けても死なずに生き続け、

増殖を繰り返して数を増やしていきます。


自殺しないガン細胞では多くの場合、

『 p53 』と呼ばれる遺伝子が働かなくなっています。


p53遺伝子の役割は、

DNAが傷ついたときに細胞の増殖を止め、

そのDNAの修復が不可能なときには細胞を自殺させることです。


また、

正常な細胞は血液から酸素が供給されなければ間もなく死にますが、

このときもp53遺伝子が役割を果たすと見られています。


このため、

p53遺伝子を失ったガン細胞は増殖をし続けて固まりになり、

中心部に血液が届かなくなってもしばらく生きて、

再び血液が供給されるまで待つことができるというのです。




では、

逆にこうした細胞の働きを逆に利用し、

ガン細胞を自殺させることができれば、

それがガンの治療につながるのではないかという観点から、

一部についてはすでに実験的治療も行われています。


その1つは、

ガン細胞にp53遺伝子を入れる“遺伝子治療”です。

簡単に言うと、

まず毒性を取り除いたウイルスのDNAにp53遺伝子を組み込んで、

遺伝子の運び屋(ベクター)に仕立てます。

そしてこのウイルスを患者さんのガンに注入します。


こうすると、

ウイルスはガン細胞に感染し、

自分の持つDNAをp53遺伝子ごと細胞の内部に運び込みます。

その結果、

ガン細胞の中でp53遺伝子が指定するたんぱく質が作られるようになり、

自殺プログラムが実行されてガン細胞は死ぬはずです。


遺伝子治療の目的は、

主にガンを縮小させて、

ガンによる痛みや呼吸困難などの症状を和らげ、

患者さんを少しでも延命させることです。


これまではガンが著しく減少した例は報告されているものの、

海外の報告では、

それが必ずしも延命につながってはいないということです。

そこで現在は、

放射線治療や抗がん剤と組み合わせて治療を行う方法も研究されています。


細胞の自殺に関する遺伝子は、

p53遺伝子だけではありません。


例えば、

『 BCL1 』という遺伝子の仲間は、

アポトーシスを引き起こしたり、

逆にアポトーシスを抑制することで知られます。


ガン細胞の中でこの仲間の『 BCL1‐X1 』という遺伝子が発現すると、

そのガン細胞は抗がん剤では容易には死ななくなります。

また、

『ハラキリ』と名付けられた遺伝子は、

逆にアポトーシスを誘導するらしいことも知られています。


そこで、

これらの遺伝子やその生産物の働きを抑えることによって、

ガンを治療する薬も研究されています。


近年、

次々に登場している分子標的薬の中には、

ガン細胞のアポトーシスを誘導するものがあります。


例えば、

代表的な分子標的薬である『イマチニブ(グリベック)』は、

このような仕組みによって、

慢性骨髄性白血病を治療するためにアメリカで開発されたものです。


この薬は、

2001年にアメリカで承認され、

その後、日本でも承認、

現在では慢性骨髄性白血病の標準的な治療薬となっています。




ガン細胞を自殺させる治療薬とは?





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Posted by ブラックジャックの孫 at 12:19 │ガン治療に関する Q & A