2013年08月12日
体の免疫システムはガンにとって両刃の剣
間 黒助です。
ガンに対する 『 免疫 』 を高めると、
ガンが小さくなるという言葉はしばしば聞かれます。
実際、
民間治療の中でも、
ガンの免疫療法は最も普及しています。
しかし、
こうした民間療法は効果である上に、
治療効果が証明されているものはないと言ってよいでしょう。
とはいえ、
ガンの医療現場でも 『 免疫療法 』 は存在するため、
一般の人々にはその違いがよく分からないまま、
民間療法に手を出してしまうことは少なくありません。
では、
そもそも体の免疫システムは、
ガン細胞を攻撃する働きを持っているのでしょうか。
『 ガン細胞が容易に死なない理由 』 で、
免疫システムが壊れるエイズ患者には特殊なガンができると書きました。
エイズはウイルス感染症の一種であり、
HIV(ヒト免疫不全症ウイルス)がTリンパ球に感染します。
Tリンパ球は免疫細胞の一種であり、
その役割の1つは、
生体内で生じた異常な細胞を見つけて殺すことです。
エイズを発症すると、
HIVがTリンパ球を破壊していくため、
免疫システムが働かなくなり、
患者さんはガンを含めて様々な病気にかかります。
エイズ患者のガンは多くの場合、
HIVに加えて第2のウイルスが感染したために発症すると見られています。
例えば、
ヘルペスウイルスなどの腫瘍ウイルスが感染した結果、
患者さんにガンが生じます。
健康な人であればたとえヘルペスウイルスが感染しても、
ガンを発症することはありません。
このことから推測されるのは、
健常人の体内では、
ウイルス感染によって異常となった細胞は、
Tリンパ球によってたえず排除されているのではないかということです。
他のウイルスの場合はどうでしょうか。
いくつかのガン(バーキット・リンパ腫、子宮頸ガン、肝臓ガンなど)では、
腫瘍ウイルスが中心的な役割を果たすことが知られています。
これらの腫瘍ウイルスの一部は、
免疫監視システムから、
感染した細胞を逃れやすくする能力を持つことが知られています。
ステルス戦闘機がレーダーの監視を掻い潜るように、
感染した細胞をいわば “ ステルス化 ” するのです。
とはいえ、
ウイルス性のガンの場合、
その細胞の表面にウイルスに由来する分子(異物)が存在することがしばしばあります。
この分子は正常な細胞にはないため、
免疫の作用を受けやすいと考えられます。
では、
ウイルス感染とは関係のないガンの場合はどうでしょうか。
健康なマウスと免疫不全のマウスにそれぞれ、
非ウイルス性の腫瘍を移植する実験が行われたことがあります。
このとき、
単なる組織不適合で拒絶されてしまわないように、
同系統のマウスに生じた腫瘍が用いられました。
その実験の結果、
免疫不全のマウスでは腫瘍がそのまま根付いて大きくなりましたが、
正常なマウスでは腫瘍が育ちにくいことが分かりました。
これは、
免疫による監視が非ウイルス性の腫瘍にも及んでいることを示しています。
しかし、
ガンと免疫の関係は複雑です。
例えば、
臓器移植などで免疫抑制剤を使用しても、
非ウイルス性のガンのリスクは上がらないという調査結果も報告されています。
つまり、
免疫が低下しても必ずしもガンになりやすくなるわけではないのです。
また、
ガンの内部に入り込んだ免疫細胞が、
ガン細胞を助ける例も明らかになっています。
例えば、
免疫細胞が分泌した分子が、
ガン細胞の増殖、血管の新生、浸潤や転移を促したりし、
さらには遺伝子変異を促進したりします。
つまり、
免疫はガンにとって両刃の剣となり得ます。
一方で、
免疫は、
分子が持つ特定の微細な構造を見分けて作用します。
すなわち、
特定の分子のみを見出す高い能力(選択制)を持ちます。
この特徴は、
転移した微小なガンを見つけて攻撃する※ミサイル療法や、
特定の分子の働きのみを妨害し、
副作用の少ない治療薬を開発するにあたっては大変魅力的です。
※ミサイル療法とは、
抗体製剤に抗がん剤や放射性物質を結び付けて治療の効果をさらに高める手法。
例えば、
『 血管を作り出す遺伝子 』 に書いた、
VEGFの作用を妨げる抗体(ベバシズマブ:商品名「アバスチン」)の有効性は、
すでに確認されています。
この薬については今、
投与後に生じる耐性や再発といった問題についての研究が進められています。
免疫のメカニズムに関する僕達の理解が進めば、
この両刃の剣が、
ガン治療の道具としてより広く使いこなせるようになるものと期待されます。
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間 黒助
Posted by ブラックジャックの孫 at 12:44
│ガンの治療法