2012年12月18日
細胞分裂の監視
間 黒助です。
今日はガンを加速度的に悪性化させる異常について書いていきたいと思います。
DNAに傷ができたときに働くチェックポイントだけではなく、
さらに重要な 『 紡錘体チェックポイント(下図M期チェックポイント) 』 を忘れてはいけません。
紡錘体とは、
細胞が分裂するときに、
染色体を2つの細胞に均等に分配する糸のような構造を言います。
紡錘体は細胞分裂のときにだけ出現し、
普段は細胞内を顕微鏡で観察しても紡錘体は見当たりません。
細胞周期のS期に染色体は2倍に増幅されます。
そしてM期に入ると、
その中央部分に紡錘糸の束がくっ付き(下写真/細胞分裂・前中期1)、
染色体を細胞の中央に押しやって整列(下写真/細胞分裂・前中期2)させます。
『細胞分裂・前期1』
『細胞分裂・前期2』
『細胞分裂・前中期1』
『細胞分裂・前中期2』
するとここで紡錘体チェックポイントが、
「染色体の増幅が完了、及び、整列を確認したので分配作業を開始する」
というシグナルを発します。
このシグナルを感知した紡錘糸は、
染色体を両側から引っ張り、、
2個に間もなく分かれる細胞に染色体が均等に入るよう分配します。
『細胞分裂・後期1』
『細胞分裂・後期2』
『細胞分裂・後期3』
その後、
細胞全体がちょうど餅を2つに分けるように真ん中がくびれ(下写真/細胞分裂・後期4矢印)、
同じ染色体を持つ2つの細胞が生まれます。
『細胞分裂・後期4』
『細胞分裂・末期1』
『細胞分裂・末期2』
紡錘体が2セット分の染色体を2つの細胞に均等に分配することにより、
細胞はどれだけ分裂を繰り返しても、
同じ遺伝子セット(ゲノム)を子孫に伝えることができます。
しかし、
多くのガン細胞では、
細胞分裂後に染色体が均等に分配されていません。
染色体の一部が欠けたり、
逆に染色体の一部に余分な領域が結合していたりします。
ガン細胞では、
この異常な現象が分裂ごとに起こることがあります。
【CHL/IU細胞を用いた染色体異常試験における代表的な染色体異常像】
(CHL/IU細胞=チャイニーズ・ハムスター肺線維芽細胞)
『染色体異常試験の正常像例』
『染色体異常試験の構造異常像例』
『染色体異常試験の数的異常像例』
染色体は、
中央付近の結合部をはさんで長いほうを長腕、
短いほうを短腕と言います。
悪性化したガン細胞に特徴的な染色体異常として、
染色体の一部が欠失する(上写真/染色体異常試験の構造異常像例)、
染色体の一部が切れて、
他の染色体と結合して位置が変わる(上写真/染色体異常試験の構造異常像例)、
遺伝子の数が増える(上写真/染色体異常試験の数的異常像例)、
などがあります。
これは紡錘体チェックポイントが異常になっているための考えられています。
染色体の分配は、
本来なら紡錘体チェックポイントの働きによって、
複製された染色体が整列してから始まるはずです。
しかしチェックポイントが機能していないため、
DNAがまだ複製されている途中段階である、
古い染色体と新しく増幅された染色体が結合している状態で、
整列と分配の作業が始まってしまいます。
紡錘体は強い張力を持っているので、
まだ複製途中の染色体が引きちぎられ、
新しくできた2つの細胞には、
元とは違った染色体が分配されるのです。
この現象を、
『 ガン細胞の染色体不安定性 』 と呼びます。
しかしこの現象は、
悪性度が高くない初期のガン細胞ではあまりに顕著ではありません。
ガン細胞が悪性化するにつれて、
より頻繁に観察されるようになります。
この異常は、
ガン細胞を特徴付ける異常な性質の多くを説明できます。
最近を用いた研究から、
1つの細胞が増殖するだけなら、
数百の遺伝子で十分であることが分かっています。
だとすると、
ヒトの細胞のように約2万5,000個もの遺伝子で動いている場合には、
細胞が生きるだけなら95%以上の染色体を失っても平気ということになります。
これは、
ガン細胞の染色体が均等に分配されなかったとしても、
分裂後の新しい娘細胞(細胞分裂で生じた2個の新しい細胞)は、
かなり高い頻度で生き延びられることになります。
もちろん、
生育に必須の遺伝子が分配されなかった場合にはその娘細胞は死ぬでしょう。
しかしガン細胞の場合には、
1個の細胞でも生き延びればそれが増えていきます。
そのような細胞は、
もはや、
あるべき場所でしかるべき仕事をする能力を失っている、
という典型的なガン細胞の特徴を持っています。
いったん、このような細胞が生まれると、
細胞分裂のために重要な機能が次々と脱落して悪性化していくことになります。
Posted by ブラックジャックの孫 at 19:00
│ガンが成長する仕組み