2013年06月14日

抗がん剤商法



間 黒助です。




抗がん剤は高い薬というイメージがありますが、

それは個々の薬の薬価という話です。

では、

抗がん剤全体の売上はどうなんでしょうか。


2010年の全抗がん剤の売上は約7930億円で、

日本で承認されている抗がん剤は約120品目ですから、

単純計算で1品目あたりの売上は約66億円ということになります。


ちなみに1品目平均で66億円の売上というのは、

抗がん剤以外の治療薬には少ないそうで、

その数字は、

ガンの新薬を開発するのは難しいが、

いったん開発して市場に投入すると、

莫大な収益を得ることができるということを示しています。


ガン細胞を叩く抗がん剤は、

同時に正常細胞にも影響するため副作用が付き物です。

そこで副作用を抑える医薬品も必要になります。

抗がん剤使用に伴う悪心・嘔吐などの副作用を、

制吐剤や白血球減少を抑えるG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などによって、

軽減・予防することが増えていて、

これらの売上も伸びています。


個々の薬価が高いだけでなく、

副作用を防ぐ薬も含め全体として大きな売上が立ちます。

しかもこのマーケットは年々大きくなっています。


2019年の抗がん剤市場では、

分子標的薬など新薬の相次ぐ発売と併用処方が進み、

約1兆1770億円に達する見通しだといいます。


その背景にあるのは言うまでもなくガン患者の増加です。


ガンは1981年から日本人の死因トップになり、

2011年には35万人強(男性約21万人、女性約14万人)がガンで亡くなっています。

継続的にガン治療を受けている人の数は約152万人とされ、

ガンにかかる医療費は2兆9577億円、

全医療費の11%強にあたります。


ガンは年を取るほど発症リスクが増えるので、

今後高齢化が進むとかかる人がさらに増えると予想されます。

実際、

人口10万人あたりの死亡率の推移を見ると、

ガン(悪性新生物)は日本人の平均寿命の伸びと軌を一にするように増え続けています。




抗がん剤商法




ガン患者が増えるということは、

医薬品のマーケットが広がることと同義です。

この成長市場で売上を伸ばそうと、

製薬会社は新薬開発競争にしのぎを削っています。


日本経済新聞(2011年9月20日付)に載った、

『 製薬大手 抗がん剤開発に重点 』 という記事ですがこうありました。




<日本の製薬大手が、新薬開発の重点を抗がん剤にシフトする。

各社が現在開発中の抗がん剤は4年前の4倍の48種類に増えた。

収益の柱である先進国向けの生活習慣病薬の市場が、

各国の医療費抑制で縮小傾向にあるため、成長余地のある抗がん剤に重点投資する。

新たなグローバル薬を目指し、欧米の大手製薬との競争が激化しそうだ>




ちなみに日本の製薬大手とは、

武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、エーザイのことです。


2007年3月期には、

この4社が臨床試験をしている抗がん剤は12種類だったが、

それが48種類に増えました。

新薬候補物質のうち、

抗がん剤の候補が占める割合は4割にも上ります。


薬九層倍という言葉がありますが、

医薬品は安い原価で高い利益を生むという原義から転じ、

ぼろ儲けの意味でも用いられます。

ヒット薬を一度出した製薬会社が巨大な利益を得てきたのは事実です。

しかしそれは製薬ビジネスが簡単に儲かることを意味してはいません。


研究開発に成功した新薬が無事承認されれば、

その薬が特許に守られている期間には大きな利益が上がりますが、

特許は原則として20年間で切れます(申請によって5年間延長できます)。

特許が切れれば安いジェネリック医薬品が売り出され、

特許で守られた独占販売していた医薬品の価格も大きく下がることが多いです。

薬価が下がるのは、

患者さんや健康保険組合(薬代を負担する側)には福音ですが、

製薬会社の経営には死活問題です。


つまり製薬会社は、

ヒットする新薬を開発できれば巨大な利益をもたらしますが、

特許が切れれば売上が急落するという、

高い利益も上げられる反面、

不安定なビジネスでもあります。

こうしたビジネスの特質から製薬会社には、

なるべく早く新薬の認可を得て、

投資を回収したいと言う動機が働くのです。





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Posted by ブラックジャックの孫 at 20:08 │日本の医学界