2013年05月28日

マクロファージの裏切り



間 黒助です。




ガン代替療法で、

特に多いのが免疫療法です。

ここでガンと免疫の関係について書いておきます。


細胞は全てガン化する可能性を持っています。

事実、

細胞のガン化は全身いたるところでしょっちゅう起きており、

健康な人でも毎日5000個の細胞が新たにガン化していると言われます。

しかしその5000個のガン化した細胞も、

片っ端から体内の免疫細胞で退治されていくので、

健康な人であれば、

ガンはそう簡単には発症しないわけです。


たとえガン化した1個2個の細胞が生き延びたとしても、

それが一挙にガン細胞の塊になって、

その人の命を奪うということはありません。

1個のガン細胞の誕生と、

その腫瘍への発達の間には、

極めて大きな距離があるのです。

しかも人間の体には、

細胞のガン化にストップをかけるメカニズムが色々あります。

遺伝子レベルのメカニズムとしてはガン抑制遺伝子があります。

ガン抑制遺伝子は、

細胞の無軌道な増殖に待ったをかけます。

ガン抑制遺伝子は種類が色々あって、

ガン細胞が増殖する色んなレベルでブレーキをかけていきます。

それらのブレーキがどれもきかないときに、

細胞のガン化(無軌道な増殖能の獲得)の最初の一歩が踏み出される訳です。

そして、

とうとうガン化した細胞が誕生したとしても、

ガンの発病に至るまでにはまだ相当な距離があります。

生まれたばかりの最初期のガン細胞が、

一挙に、どんどん爆発的に増殖し出すわけではありません。

たいてい生まれるとすぐに免疫細胞に食べられ消化されてしまうと考えられています。


人間の免疫系には、

原始的な自然免疫系と高級な適応免疫系があります。

体外から細菌やウイルスなどが侵入してきたときに、

それをきちんと個体識別して選択的に退治していくのが適応免疫系で、

どんな異物であろうと出会ったら最後、

とにかく闇雲に相手を食べて消してしまうのが、

自然免疫系の食作用を持つ白血球系の細胞です。

そういう細胞は幾種類かありますが、

その中でも主役を務めるのが、

別名 “ 大食細胞 ” と言われるマクロファージです。

アメーバのような形状をしていて、

どんな異物でも見つけるとすぐに近付いてパクリパクリと飲み込んで消化してしまいます。


これまで、

体内のいたるところでしょっちゅう生まれているはずの、

発生期のガン細胞を退治してくれる主役はマクロファージだろうと考えられていました。

それは基本的にはその通りなのですが、

そのマクロファージが状況によっては、

ガン細胞を殺すどころか、

反対にガン細胞が育つのを助けてしまうこともあるということが分かりました。


マクロファージは原始的な細胞なので、

与えられた任務(異物と出会ったらパクパク食べる)を、

ただ機械的に忠実にこなしていくだけなのですが、

それがガン細胞が生きていくのを助けてしまうということです。

ガン細胞の悪性化の第1歩は 『 浸潤 』 作用といって、

増殖するに従って周辺の組織の中にジワジワと入り込み、

そこで増えていってしまうことにあります。

これを 『 浸潤 』 、英語では 『 invasion 』 と言います。

それは正しく宇宙人のインベーションと同じで、

ガン細胞という全く種を異にする生き物による正常細胞社会に対する侵略です。


正常細胞の間では、

このような侵略は決して起こりません。

正常細胞は全て自分の所属する組織の一部として、

一定の領域内で、

隣近所の細胞と互いに結合し合って、

あるいは敵対者ではないという生体信号を発し合って存在しています。

どの領域も、

基底膜という膜状の細胞のシートで囲われていますから、

ある組織に属す細胞がフラフラとただ1個所属組織を離れて、

隣の組織の中に進入していくことなど有り得ないのです。


細胞は自分の所属組織に属して、

隣近所の細胞と共同行動を取っている限り 『 良性 』 です。

たとえ細胞分裂の過程で何らかの間違いが起きて、

ちょっと余計に細胞ができてしまって(過形成)、

そこが膨れ上がってコブのような膨らみ(腫瘍)になってしまったとしても、

基底膜に包まれた細胞集団として、

まとまりのある1つの独立した領域を形成している限りは、

それは 『 良性腫瘍 』 なのです。


しかし、

その領域を囲っていた基底膜が崩れて、

その腫瘍に属していた細胞が隣りの領域へジワジワと入り込み、

2つの組織の細胞が混在するインベーションが起きたら、

その 『 良性腫瘍 』 は 『 悪性腫瘍(ガン) 』 になったと判断されます。

病理学者がガンの判定で顕微鏡を覗いているとき、

注意を集中しているのは、そこです。

組織と組織の間の細胞の配列の乱れと異細胞の侵入の有無、

すなわち浸潤の有無なのです。

つまりガン化が始まったかどうかは浸潤の有無によって判断されるのです。

その浸潤の最初の1歩を免疫細胞の大物中の最大の大物、

マクロファージが助けていたというのですからビックリです。

マクロファージは、

死んだガン細胞を食べてきれいにする掃除人役を務めますが、

生きたガン細胞は食べないのです。

そしてガン細胞の進行方向にある邪魔者をどんどん飲み込んでしまうのです。


マクロファージの本来的役割の1つに傷の修復があります。

傷を修復するためにマクロファージは次々に一連の信号物質を放出します。

その信号物質が、

マクロファージに自然とガン細胞の変動の先導役を務めさせてしまうのです。


分かりやすいように “ 一連の信号物質 ” と表現していますが、

これはカテゴリー的には 『 サイトカイン 』 と呼ばれている物質で、

全て固有名詞があります。

人間の体の中は、

細胞と細胞がガチガチに結合し合って、

動きが取れない状態にあるわけではありません。

人体の60%は水分ですから、

個々の細胞はいわば細胞間を埋めている液体に浸った状態で、

ゆるゆるの結合しかしていません。

その細胞間の海の中に各種の信号物質、生理活性物質が漂っていて、

それが細胞と結合すると、

その細胞に今何を成すべきかの信号が伝達されるわけです。


これが細胞社会で起きる現象の原型です。

さらに腫瘍形成の第1歩も、

そういうパターンとして起きるということが、

最近ステップバイステップで分かるようになってきました。

そして分かってきた意外なことは、

ガンの第1歩がナイフで切るなどしてできる傷口の修復過程とそっくりだということです。




マクロファージの裏切り





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Posted by ブラックジャックの孫 at 15:15 │人間はなぜガンになるのか