2013年05月09日
リンパ球が適応免疫を担う
間 黒助です。
ここ数日で、
『 ガン細胞を殺せない免疫細胞はない 』
『 ガンに対して重要な細胞は何か 』
『 自然免疫 』
『 貪食細胞マクロファージ 』
で説明した “ 自然免疫 ” 系の細胞は、
異物であれば何であれ、すぐに攻撃を加えます。
敵を選別し特異的に反応する、ということはありません。
これに対し、
そうした特異的な攻撃を行う白血球がリンパ球です。
例えば、
よく知られているように、
子供の頃、1度麻疹(はしか)にかかると、
たとえ大人になってもそれ以降は2度とかかることはありません。
これは、
免疫系が1度感染したバクテリアやウイルスに対して、
その特徴を記憶していて、
再度同じバクテリアやウイルスが体内に侵入してきた時には、
すかさず対応できるように準備しているためです。
このように、
相手を特異的に認識して反応する免疫の働きのことを、
“ 適応免疫 ” と呼びます。
そして、
この適応免疫の働きを担う免疫細胞が、
リンパ球と呼ばれる一群の白血球です。
上図を確認していただくと分かるように、
リンパ球には様々な種類があります。
今日はまず、
このうちのB細胞(Bリンパ球)について説明をしていきます。
【B細胞(Bリンパ球)】
細菌、あるいは細菌が放出する毒素などに対し、
武器になる “ 抗体 ” を生産して血液中に放出し、
対抗していくのがB細胞(Bリンパ球)の仕事です。
細菌は、
細胞表面上に特徴的な分子を表しています。
これを “ 抗原 ” と呼び、
抗体の標的となります。
また、
細菌の放出する毒素も特徴的な分子構造をしていて、
その一部は生体の細胞やたんぱく質に結合して機能を損なわせ、
その結果が毒として働きます。
となれば、
細胞やたんぱく質に結合する部分を塞いでしまえば、
毒素としての仕事ができなくなります。
この状態が毒素の中和です。
こうした仕事を受け持つのが抗体の役目なのです。
抗体が取り付くと、
取り付かれた細胞は本来の機能を発揮できなくなるほか、
抗体自体の作用で障害されたり、
マクロファージなど他の免疫細胞が、
取り付いた抗体を目印に捕食しやすくなったりします。
(これを抗体依存性細胞障害作用、略して 『 ADCC 』 といいます)
『 適応免疫 』 の中でも、
こうしたB細胞(Bリンパ球)と、
それが生成する抗体中心とした免疫システムのことを、
特に 『 特性免疫 』 と呼びます。
細菌や毒素が持つ抗原は、
それぞれが特徴的な形をしています。
そのため、
そこに取り付くには特異的に結合できる抗体が必要になります。
『 たんぱく質を理解する 』 で書いた、
鍵と鍵穴の関係のようなものです。
体内を巡るB細胞(Bリンパ球)の表面には、
細胞表面抗体と呼ばれる抗体が多数あり(1つのB細胞上の抗体は同じ種類)、
この抗体の形が異なるB細胞(Bリンパ球)の種類も無数にあるため、
目的の細菌や毒素などが持つ抗原に特異的に結合できる抗体が必ずあります。
ただし、
1つのB細胞(Bリンパ球)は1種類の抗体しか生産できません。
そこで、
目的の抗原とピッタリはまる抗体を持っているB細胞(Bリンパ球)が抗原を認識すると、
激しく活性化して同じ抗体を作り出せる細胞を増殖させ、
必要な抗体を大量に生産し始めます。
そしてそれを血液中に放出し始めるのです。
B細胞(Bリンパ球)が敵を認識し、
対抗できる抗体を大量に生産するこの過程には、
ある程度時間が掛かります。
その間にも細菌やバクテリアなどは増殖しているので、
血液中に十分な量の抗体が放出されるまでにはタイムラグがあります。
バクテリアなどによる感染症にかかったとき、
完全に治るまでに多少時間が掛かるのは、
こうした仕組みによる部分もあるでしょう。
抗体のイメージは、
英語の 『 Y 』 の字を思い浮かべて下さい。
二股に分かれた先が「可変領域」、
下の部分が「定常領域」と呼ばれます。
そして、
このうちの可変領域は遺伝子の働きによって無数の形をとることができ、
それによって事実上、
あらゆる抗原に対応できる多様性を有しています。
①中和作用
対象の受容体や特徴的な分子構造に取り付き、機能を阻害する作用。
②ADCC作用(抗体依存性細菌障害作用)
病原体などに付着した抗体を目印にマクロファージなどの他の免疫細胞を呼び寄せる作用。
③対象の細胞を傷害する作用(CDC活性)
抗体が付着することで活性化した補体系により、対象の細胞が破壊される作用。
この抗体を使用し、
ガン治療に応用している薬があります。
『 抗体医薬品 』 とか 『 抗体製剤 』 などと呼ばれる薬で、
ガン細胞などが現す特異的な抗原のみに作用する抗体を使うことで、
その働きを阻害したり、傷害したりすることを狙うものです。
特定の種類の単一の抗体を使うため、
『 モノクローナル抗体製剤 』 とも呼びます。
いくつかの例を挙げましょう。
乳ガンの性質によっては、
『 HER2 』 と呼ばれる細胞増殖因子の受容体が、
ガン細胞の表面に過剰に現れているものがあります。
このブログでも何度か取り上げた 『 ハーセプチン 』 は、
このHER2受容体を抗原として、
特異的に作用する抗体を利用したモノクローナル抗体製剤です。
また、
こうした抗体を作るB細胞(Bリンパ球)自体もガン化することがあります。
『 B細胞リンパ腫 』 という種類のガンですが、
そのうちの非ホジキンリンパ腫という種類のガンに対して、
高い効果があるとされるのが 『 リツキサン(一般名:リツキシマブ) 』 です。
『 CD20 』 という、
B細胞(Bリンパ球)の特異的な表面抗原を目印にするモノクローナル抗体製剤です。
これらの薬剤では、
抗体が結合したガン細胞に対し、
この抗体の定常領域にNK細胞やマクロファージなどが結合することで、
ガン細胞を殺傷するADCC作用もあります。
それにより、
さらなる抗腫瘍効果も期待できるでしょう。
代表的な2つの薬を挙げましたが、
モノクローナル抗体製剤は効果的で副作用が少ない薬として、
近年では従来型の抗がん剤に取って代わる勢いを見せているほどです。
参考になるよう、
2012年9月現在で、
日本国内で使用されている主なモノクローナル抗体製剤を書いておきます。
①アービタックス(一般名:セツキシマブ)
抗原の種類 : EGFR
適応 : 大腸ガン
②アバスチン(一般名:ベバシズマブ)
抗原の種類 : VEGF
適応 : 大腸ガン、肺ガン、新生血管阻害
③ランマーク(一般名:デノスマブ)
抗原の種類 : RANKL
適応 : ガンの骨転移
④アクテムラ(一般名:トシリズマ)
抗原の種類 : IL-6
適応 : 関節リウマチ
⑤レミケード(一般名:インフリキシマブ)
抗原の種類 : TNF-α
適応 : 関節リウマチ
⑥シンポニー(一般名:ゴリムマブ)
抗原の種類 : TNF-α
適応 : 関節リウマチ
⑦ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)
抗原の種類 : TNF-α
適応 : 関節リウマチ
※モノクローナル抗体を使用した抗体医薬品は分子標的薬に含まれます。
このブログでも何度か取り上げたタルセバやイレッサなども同じ分子標的薬ですが、
抗体は使用していない種類のものです。
※ガンではなく関節リウマチの治療用に保険適応となっている薬も4つ挙げていますが、
これは、これらの薬が、
ガンの作る免疫抑制の解除に大いに役立つ可能性が指摘されているためです。
あくまで参考として載せてみました。
Posted by ブラックジャックの孫 at 15:23
│ガンになったら