2013年05月20日
ガンの免疫抑制を解除する術
間 黒助です。
ガンの作る免疫抑制を解除するにはどうすればいいのかというと、
まずは何と言っても手術です。
ガン細胞そのものを最大限、根こそぎ取ることができれば、
免疫抑制を働かせている “ そのものの根 ” が断たれるでしょう。
また、
放射線治療も、
ガン細胞の絶対量を減らすことで、
局所的な免疫抑制解除の役割を果たすことになり、
意味があると思います。
ただ、
今回はそうした物理的な免疫抑制の解除方法はいったん置いておいて、
ガン細胞に対して分子レベルで作用する方法がないかを検討していきたいと思います。
最近、
アメリカで認可された 『 エルボイ(一般名:イピリムマブ) 』 は、
CTLA‐4という制御性T細胞が生産する免疫抑制因子を、
抗原として狙い撃ちにできる分子標的薬(モノクローナル抗体製剤)です。
大幅な生存期間の延長が認められ、
切除不能のメラノーマの患者さんに対して認可されました。
また現在、
国内でも臨床試験が行われている最中の抗PD‐1モノクローナル抗体製剤も、
T細胞(Tリンパ球)の活性化を阻害する因子の除去を狙ったものです。
進行性のメラノーマ、非小細胞肺ガン、
腎細胞ガンなどに対しての臨床試験が進んでいますが、
かなりの効果が期待できると聞いています。
ただ、
現在これらの薬を使うことには問題があります。
1つは価格の問題です。
例えば上記のエルボイは、
2012年時点では、
アメリカで投与を受けたとしても、
1コース4回の投与で約1,000万円近くかかってしまいます。
少し前にアメリカで認められた、
前立腺ガンに対する樹状細胞ワクチン 『 プロペンジ(一般名:シプリューセル‐T) 』 も、
1コース800万円近くかかるそうです。
よほどの資産家でもなければ使える薬ではありません。
また、
もし投与して実際に効果が出たりしたら、それはそれで問題になるでしょう。
心情的に2クール、3クールと続けないわけにはいかないだろうから、
資金が尽きるまで止められなくなる恐れさえあります。
問題は、
薬剤を認可するために必要な臨床試験に莫大な費用がかかることです。
製薬会社は数千億円ともいわれる開発費を償却する必要があるので、
“ 命の値段 ” が跳ね上がってしまうのです。
これらの薬も、
将来は時間と共に価格が下がり誰でも使用できるようになるでしょう。
しかし、
多くのガン患者さんはその時間を待つことができません。
ある意味、地獄の苦しみです。
また、
抗PD‐1モノクローナル抗体製剤の方は、
臨床試験なので誰でも受けられる治療ではありません。
ここで挙げた2つの薬、
エルボイと抗PD‐1モノクローナル抗体製剤は、
特別、免疫系の活性化を意図したものではありません。
単に、
一方向からの免疫抑制の解除だけを目的とした分子標的薬です。
この事からも、
これからのガン治療の方向性を考える時に、
免疫抑制の解除がいかに重要なポイントになるかが理解頂けるのではないでしょうか。
ところで、
ガンの免疫抑制を解除するだけで、
ガン治療に繋がる可能性があるという話を散々書いておいて、
実際にそれを行うには上記のように、
あまりにも高額な治療費がかかるというだけでは、
ようやく上がったハシゴを外されたということになりかねません。
そこで僕の個人的見解は置いといて、
今すぐに、
多くの患者さんが手の届く範囲の金額で、
治療に応用できる一般的な免疫抑制の解除方法を考えてみたいと思います。
第1に考えられるのは、
低用量の抗がん剤の使用があります。
ガン細胞を殺さない程度のごく少量の抗がん剤の使用は、
ガン細胞の活動を抑制し、
同時にガン細胞が作り出す免疫抑制を外す効果があると言われます。
マウスの実験では、
最大耐用量の10分の1程度の少量のシクロフォスファミド(抗がん剤)と併用することで、
活性化リンパ球の腫瘍殺傷作用が大幅に上がるという研究結果が確認されています。
また、
これとは別の手段として、
ビタミンC療法にも可能性があるかもしれないと考えています。
分子生物学的にはまだよく分からないのですが、
低用量の抗がん剤と同じようにガン細胞の活動を抑制し、
結果として、
ガン細胞周辺の免疫抑制を外す効果があるのではないかと考えています。
さらには、
セレブレックス(一般名:セレコキシブ)などのシクロオキシナーゼ2(COX‐2)阻害薬には、
免疫抑制因子の最右翼である、
プロスタグランジンE2(PGE2)の生産をブロックする効果があるので、
これも免疫抑制解除のために使用できるのではないでしょうか。
尚、
プロスタグランジンE2(PGE2)と並ぶ代表的な免疫抑制因子、
TGF‐β(ベータ) 『 ガン細胞の増殖が止まらなくなるのはなぜか を参照 』 に関しては、
これを阻害する薬は試薬としてはいくつか存在するようですが、
標準治療で認可されたものはまだ無いようです。
正常細胞でも生産され、
バランスのとれた形で生体内のいたるところで働いている生理活性因子を、
ガン細胞だけで阻害し、
働かないようにすることはなかなか難しいことです。
通常の薬として血管内に投与すれば、
体全体に広がって正常細胞にも作用してしまうからです。
また、
別の観点から、
免疫抑制解除の方法を検討することもできます。
製薬会社は、
臨床試験に湯水のごとく金がかかるガンに対しては後回しにして、
まずは早期に認可が下りやすい他の病気で保険適応の承認を取って、
その後に適応を拡大させる手法を取る場合があります。
その戦略を逆手に取れば、
将来的にガンの治療薬として認められる可能性が高い薬を、
早期に使用できる可能性があります。
例えば、
『 リンパ球が適応免疫を担う 』 で紹介した、
リウマチに対するモノクローナル抗体製剤のいくつかは、
TNF‐α(アルファ)というシグナル伝達物質を阻害する分子標的薬です。
これらの薬にはガン細胞を殺す作用は無いので、
単体では大きな効果が表れないかもしれません。
しかし、
他の薬剤や治療法と併用することで、
治療効果を期待できるかもしれません。
TNF(Tumor Necrosis Factor)は、
日本語にすると 『 腫瘍壊死因子 』 となります。
名前の通り、
ガンを殺す因子として発見された経緯があります。
しかし、
実際にガン細胞周辺に少量存在する場合には、
その効果があるのですが、
TNF‐α(アルファ)を過剰発現しているようなある種のガンにおいては、
この因子に対してガン細胞自身は耐性を作り出し、
むしろガン細胞が大量生産することによって、
免疫系へのバリアーとしているパターンが見られます。
本来はガンに対して抑制的に働くものを、
狡猾なガン細胞が逆手にとって利用している、何度も繰り返されるパターンです。
また、
この辺りはTGF‐β(ベータ)の例にもよく似ています。
こうした働きをする因子を阻害することで、
免疫抑制の解除を狙う、ということです。
最後に、
ガン細胞の表面から組織適合抗原のクラスⅠ分子が喪失する、
『 免疫系からのエスケープ (ガン細胞の反撃 を参照) 』 という、
ガンの作戦に対する戦略を考えてみます。
肝炎の治療薬として知られるインターフェロンには、
この引っ込められたクラスⅠ抗原の提示を促す作用があることが知られています。
インターフェロンには、
大きく1型のα(アルファ)とβ(ベータ)、
2型のγ(ガンマ)があり、
いずれも細胞性免疫を活性化し、
直接的にガン細胞を殺す効果があります。
そのため、
腎細胞ガンやメラノーマ、
脳腫瘍などのガン治療にも使用されている免疫系の薬です。
特にインターフェロン‐γ(ガンマ)は、
細胞性免疫への誘導に重要であり、
抗原提示を増強させる因子でもあります。
ガン細胞の周辺において、ごく微量で作用するので、
局所投与しておいてから、
リンパ球療法を併用する手段も考えられます。
いずれにしても、
ガンが作り出す自らを守る障壁=免疫抑制を解除して、
丸裸にしていく戦略は、
これからのガン治療においては欠かせないものの1つだと考えています。
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間 黒助
Posted by ブラックジャックの孫 at 16:29
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