2020年06月21日
中性子線当て、がんだけ破壊 頭頸部治療、「純国産」技術で開始
間 黒助です。
先日こんな医療ニュースがありました。
がんの患者に中性子線を照射して、
がん細胞だけを選択的に破壊する、
「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」
による頭頸部(とうけいぶ)がんの治療が6月、世界に先駆けて国内で始まった。
開発に約半世紀をかけた「純国産」技術で、
既存の方法に続く治療法として期待される。
中性子線は放射線の一種だが、
BNCTは従来の放射線治療とは仕組みが異なる。
このため、手術▽抗がん剤▽放射線▽がん免疫療法……に続く治療法にと期待されてきた。
1回の照射で高い効果が見込まれ、副作用も少ない。
再発がんなど治療の難しいがんに有効な場合もあるとされる。
2020年3月、
ホウ素薬剤「ステボロニン」(ステラファーマ社)と、
病院などの施設でも中性子線を生み出せる
加速器「ニューキュア」(住友重機械工業)
の製造販売が国から承認され、
6月までに公的医療保険の適用を受けた。
現在、
設備のある南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)と、
関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)で治療が可能だ。
保険適用に先立ち、
「評価療養」として南東北BNCT研究センターで、
咽頭(いんとう)がんの50代男性に行われた治療は、
1回の照射で無事終了した。
手術や放射線治療を受けたが再発を繰り返し、
他の方法では治療が困難だったという。
高井良尋センター長は、
「がん治療のパラダイムシフトになりうる」
と語る。
BNCTは、なぜ効果が期待できるのか。
ポイントは、がん細胞が増殖時にホウ素を取り込みやすいという性質だ。
患者に点滴でホウ素が含まれる薬剤を投与すると、
ホウ素はがん細胞だけに取り込まれる。
数日後、中性子線を患部に約数十分間照射すると、
中性子線は正常細胞を通過し、
がん細胞に取り込まれたホウ素に衝突。
ホウ素の核分裂によってリチウムとアルファ線が生じ、
アルファ線ががん細胞を内部から破壊するという仕組みだ。
一方、
体の深い所は治療に必要な量の中性子線が届かない。
このため体表に近い喉や口腔(こうくう)、鼻など頭頸部のがん治療に向いている。
●開拓者と原子炉
研究を手がける小野公二・大阪医大BNCT共同臨床研究所長は、
世界に先駆けた実用化の立役者として、
「2人の開拓者」と「研究用原子炉」の存在を挙げる。
BNCTの研究は、
英物理学者が中性子を発見した約20年後、米国で始まった。
研究グループは悪性脳腫瘍の患者約60人を対象に臨床研究を行ったが、
治療後の平均余命が半年未満という結果に終わり、
10年間で研究は終わった。
その後、1968年に国内で初めて研究を始めたのが、
米国グループの研究者に師事した東京大の脳外科医、
畠中坦(ひろし)氏(その後帝京大教授、故人)だった。
ただ、有効性を示す結果が得られたものの、
悪性脳腫瘍は当時治らない病気とされ、
他の医師らにはなかなか認められなかったという。
そんな中、
皮膚科医で神戸大教授だった三島豊氏(故人)が、
がん細胞がホウ素を取り込みやすいよう工夫された新しい薬剤を開発。
87年に皮膚がんの一種、悪性黒色腫の患者への研究を始めた。
さらに生物学、化学、物理学、放射線学の専門家でチームを作り、
本格的な治療へ育てる体制を整えた。
2人からバトンを受け取ったのが、
当時京都大原子炉実験所(現在の複合原子力科学研究所)にいた小野さんだった。
小野さんたちは、
悪性脳腫瘍や頭頸部がんの治療研究実績を着実に積み重ねた。
その実績とともに研究拠点は関西をはじめ全国へ広がり、大きなネットワークに育った。
小野さんは、
「原子炉を中心に人が集まっていった。
炉がなければ研究はできなかった」
と研究用原子炉の意義を強調する。
●他部位にも応用へ
BNCTは頭頸部がんに続き、
悪性脳腫瘍も早ければ年内に承認される見込みだ。
また、国立がん研究センターでは、
別の加速器を使った皮膚がん治療の研究が進む。
中性子線の出力や、
ホウ素のがん細胞への集まりやすさを高めることで、
さらに幅広い種類のがんに使える可能性があるという。
一方、ペット動物のがん治療への応用も考えられている。
犬や猫などは人間より体が小さく、手術は難しい。
逆に中性子線は患部に届きやすく治療効果が見込める。
京大複合原子力科学研究所の鈴木実教授は、
「頭頸部がんに最初の保険適用が認められたことは大きい。
臨床研究もやりやすくなり、BNCTの研究はさらにスピードアップしていくだろう」
と話している。
<2020年6月18日 (木)配信毎日新聞社>
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間 黒助
Posted by ブラックジャックの孫 at 13:03
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